協会の考え方

 

動物のアロマセラピーは、ヒトの情報が基本になっているため、海外の情報などにより、その現実を把握しなければなりません。アロマセラピーは植物の芳香物質を利用する補完代替療法の1つです。精油はessential oilと呼ばれており和訳すると「植物の精からなるオイルあるいは私たちの生活に不可欠なオイル」となりますが、決して私たち動物にとって不可欠でもなければ一般的にオイルと呼ばれる油脂でもありません。水には殆ど溶けない人工的に高濃度に濃縮された脂溶性有機化合物です。

 

私たちがアロマセラピーで利用する植物の二次代謝産物である芳香物質は、植物自体にとっては、必ずしも絶対に必要な物質であるとは今までは認識されておりませんでした。しかし近年の研究で、アロマセラピーに利用するこれらの芳香物質や樹脂などは、植物が生来備え持つ液性免疫の免疫物質であることが解明されるようになりました植物が生存し続けるための自己防衛には不可欠な物質だったのです。

 

しかしながら、その有機化合物は動物の身体にとっては、毒物、薬物と同じレベルのxenobioticsゼノバイオティックス;生体外異物)に他ならないのです。

 

近年ネコにアロマが危険だという情報が少しずつ浸透しつつあり、イヌを対象に行われるアロマセラピーが流行していますが、家庭ではイヌばかりではなくネコや小鳥、その他の小動物(観賞魚やペトの昆虫も含む)と同居している場合も多々あります。このような状況下では、イヌに対するアロマセラピーを実施する際には、他の動物に対する十分な配慮も必要となります。

 

平成25年、環境省よりスルビズが提案され、その一つとして衣類を洗濯する際に香り付き柔軟剤や制汗剤の使用が推奨されました。「香料などの化学物質で体調を崩す人を増やす」というクレームが殺到し境省も早急な対応を迫られているそうですが正に、人ばかりでな私たちと共に生活をしている動物たちへの配慮も不可欠ではないでしょうか。特に合成香料の場合はネズミにおける実験ですが、雄の精巣が萎縮する現象がみられたという研究報告がなされています。近年 注目されているシックハウス症候群の原因の1つに、精油の主成分でもあるルペン類も含まれます。米国など汚染の原因となるイソプレノイドを放出する樹木を公園などに植えないような運動も開始 されています。地球全体の環境保全の観点からみますと野生の植物の素材から抽出する精油はその植物の種を激減させる原因にもなりますので例えばローズウド、サンルウド、アトラスシダーウッドど、あるいは野生亘花出するような素る限り使用は避けるべきだと思います。精油の販売会社は、例えば、プラジルのローズウッドなどは、木を1本伐採する際に、2本の苗木の植樹を実施しているので問題はないと言うところもあるようですが、現地では、森林の面積は急速に縮小しています。企業の説明は事実ではなく、ローズウッドはワシントン条約(CITES)で絶滅危惧種にも指定されています。インドでもサンダルウッドの輸出に規制がかかるようになっています。また、これらの素材から抽出される精油では、かなり以前から合成香料が利用されている確率も高いことが指摘されています。森の香りの成分であるモノテルペン炭化水素は、極めて揮発性が高く、水にも殆ど溶解しませんので、ネコ類の体内に入りやすく、また、ネコ類の代謝酵素の特性から代謝され難い化合物なため、大変大きなリスクとなります。ネコに森の香り、レモンの香りが有毒だという理由の1つです。

 

動物の身体に、精油の成分が入た場合には、生体にとっては異物なため、一刻も早く水溶性に変化させて(代謝して)、尿や糞便、呼気などに溶解させて体外に排出しないといけない物質であることを認識していないと、これらのxenobioticsを安全に使いこなすことはできないのです。アロマセラピストにある程度の薬物代謝の知識と、共に暮らす動物たちの生理/代謝についても、一定の認識が必要な由縁です。

 

近代の「アロマセ」という用語が使用されるようになり、欧州などでは多くのアロマセラピストと呼ばれるスペシャリストが誕生し、様々な著書が発表されています。まだ学術的な研究が行われる以前から、上記のことを認識していない黎明期のアロマセラピストたちは、欧州薬局方に記載されている当該植物のハブとしての効果を、精油の効果/効能として本に羅列したために、それが、日でも多くのアロマ教育機関でバイプルとして利用されています。精油辞典を参照すると、いずれの精油の項にも、多くの適応症となる病名や症状が列挙されています。人類が植物素材を煎じたり、ハープティーとして薬効を利用しておりますが、ほのかに香る芳香成分は別として、煎じ薬やハーブティーなどの主成分は、水に溶ける成分からできています。一方、精油はと言いますと、水に溶ける成分は非常に限られたもののみで、その主成分の殆どは脂溶性成分なのです。それも、人工的に高濃度に濃縮された化学物質です。

 

極端な表現ではありますが、「アロマセラピーサイエンス」の著者である生化学者のMaria Lis-Balchinは、「バターを塗って全身マッサージをすると、ミルクを飲んだことと同じ効果がある」ということに匹敵すると述べています。バタもミルクもxenobioticsの含有量は非常に少ないと思われますので、少々、例えには難がありますが、精油のような 100% xenobioticsである有機化合物が動物の体内に入った場合、身体に侵入した捩間から、私たち人間も含めて、ただちに防御機構が働き、様々な酵素やトランスポータとよばれるタンパク質などがかかわって、これらの物質を体外に出そう、出そうと肝臓などもフル回転で対応します。

 

私たちの体内で産生される代謝酵素は、精油の成分が吸収された部位から、それらの有機化合物に対して働きかけを開始しますが、何と言いましても、一番の解毒/代謝機関は肝臓です。この肝臓の酵素の働きを 少しだけでも認識しておかないと、アロマの摩詞不思議な謎は解けることがありません。

 

人のアロマの教育機関では、「飲酒をした人にアロママッサージをしてはいけない」と教えているそうです。アロマセラピストの資格をお持ちの方の多くは、この情報を知っています。何故なのか、その理由を説明している教育機関は殆どないのが現状です。そう、身体の酵素がアルコールと精油成分という2つのxenobioticsが同時に身体の中に侵入してきたために、酵素の働きが互いに抑制しあう結果となり、アルコールを分解するアルコール分解酵素、アセトアルデヒド分解酵素が働くことができずに、アルコール成分が長く体内に残り、いつまでも代謝されずに二日酔いの現象が誘発されるのです。数%の濃度の精油が入るキャ  リアオイルで全身をマッサジしただけで、このような酵素活性の阻害ということが起ることをアロマセラピストたちは認識していなくてはなりません。

 

よく、降圧剤(高血圧の治療薬と、グレープフルツジュースを一緒に飲んではいけないということが言われますが、これも殆ど同じ理由なのです。ジュースに含まれるフロクマリンが薬剤と相互作用を示すことと、腸管で薬が体内に入らないように防御的な押し出しポンプの役割を担っているトランスポタのP糖タンパクの働きも抑えてしまうため、ダプルパンチで薬剤は血中濃度も上がります。薬効が高まり過ぎ、血圧が下がり過ぎて起きていられないほどの影響が出てしまうのです。コップー杯のジュースに含まれるフロクマリンの量は極めて微量です。フロクマリン類は圧搾法で採取されるシトラス系精油にも含まれているのです。お気づきのことかと思われますが、食品の特定成分を濃縮したサプリメントや添加物についても、形状こそ違いますが同様の懸念があります。

 

植物の二次代謝産物であるxenobioticsには、動物の体内の酵素の働きを阻害するものばかりでなく、逆の作用で、酵素の活性を高めてしまう場合も多々あります。ハーブや漢方薬では、西洋薬との相互作用があ る程度研究されておりますが、精油ではまだまだ研究が始められたばかりで、学術的な報告もまだまだわずかです。短期的には、精油成分は肝臓第1相(l段階目)の代謝酵素の活性を抑制して、西洋薬の「生物学的利用能;薬としての効果」を高める作用が報告されていますが、長期的な精油の利用に関する研究は未解明で詳しいことはわかりませ。ネズミの実験で、精油の肝臓酵素に対する影響が、短期では抑制し、長期では逆に誘導されるということが報告されているのみではないかと思われます。薬効が高まると、利点ではないかと思われるかも知れませんが、副作用の強い薬剤は、思わぬ現象が起ります。精油と西洋薬との相互作用に関する注意報は、メリランド大学のメディカルセンターが公表しています。

 

代謝酵素の抑制のお話ばかりでしたので、逆の例を挙げますと、ハーブのお話になりますが、鬱に効果的だと言われ、若い女性に人気のセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)やエキナケアのハーブティーを愛用している人が喘息になった場合、発作時に飲まなければいけない気管支拡張剤の薬効が、ハーブティーを飲んでいるために、代謝酵素が活性化されて、効きにくくなってしまうのです。薬剤が体内に入ると同時に代謝酵素で変化してしまい排泄されてしまいますので、気管支が拡張せず、猛烈な咳の発作がおさまらず、命にかかわる事象が起ります。健康によかれと思って愛用しているハープやアロマに、このような恐ろしい作用があると想像なさったことがあるでしょうか。

 

このようなことを知らずに、アロマセラピストの資格を持った人が、顧客や友人にアロマの効果効能を伝え、利用法を伝授してアドバイスをしていたとしましょう。その顧客や友人が、病気になった時に服用する薬剤に対して何らかの影響が出た場合、知らなかったではすまされないことは明確でしょう。

 

更に複雑なことに肝臓の酵素の種類や数は、動物種ごとに大きな差異があるのです。人のアロマ=動物のアロ という考えが、いかに危険であるかは一目瞭然です。特に野生のネコ類も含め、私たちの家族の一員となっていイエネ遺伝子に異常があため精油成分を完全に代謝する酵素が欠けているのです。しかも、酵素の数から雌ネ コのリスクの方がかなり大きいことも示唆されます。近年の研究では、遺伝子のどの部分に異常があって酵素がつくられないのかという説明をはじめ、ネコ類以外の動物、カッショクハイエナやキタゾウアザラシでも同じような遺伝子の異常があり、精油成分の分解をするための酵素不完全であることも学術的に証明されるようになりました。フェレットのアロマ事故やジャコウネコの仲間における代謝機構の不備が報告されておりますが、これらの動物種は遺伝子の変異は未解明で臓の酵素の働きが弱いことのみが報告されています。

 

動物のアロマに関する情報があふれる時代になりました。「イヌもネコもアロマで癒される」とばかりに、精油の効果/効能だけが強調される動物のアロマ教育がビジネス化し大手報道機関や地方紙などでも大きく取り上げ、宣伝も盛んになっています。イヌでも全ての精油が安全であるということはなく、フェノールやケトンが多く含まれる精油やハイドロゾル(水蒸気蒸留で精油を抽出する際に副次的に採取されるフローラルウォータのこと。別称ハーブウォーターとも呼ばれる)は危険を伴います。ヒトで繁用されるティートゥリー精油なども、中枢神経毒が報告されています。なお、米国動物中毒予防センター(AmericanAnimal  Poison  Control  Center)のカーン獣医師は、ハイドロゾルでさえ、成分分析が行われておらず、ネコに使用すると危険であると述べています。私達の協会で利用するハイドロゾルは、危険防止の意味か らも、大学で成分を分析していただいております(2013年当時。現在は扱っておりません)。

 

精油の薬効などは、学術書でも毎日のように新しい情報が報告されています。しかしながら、学術的に報告された実験でも、「アロマセラピーサイエンス」の著者であるMaria Lis-Balchinが言うように、真の学術的なエビデンス(科学的な根拠)として認められる実験は、大変数が少ないのが現状です。研究者たちは、成分分析表がついた市販の精油を100%天然の精油と信じて実験をしています。研究者たちが自身で、あるいは高度の分析技術を備えた分析機関で実験に供する精油の成分を分析している実験報告は、極めて稀なのです。そして、当該精油の薬効は主成分が果たしているという理論で主要成分を用いてデタの収集を同時に行い、その成分を主体に含む精油の効果/効能と断定して報告していますが、多くは精油成分に異性体があることを無視し、合成香料を利用した実験であることも多くアロマセラピーのエピデンス の信頼性が根底から揺らぎます。人間のように心理作用が多く関係する場合は精油の主要成分の薬理作用が、そのまま精油全体としての作用と断定することはできません。動物では暗示を与えることもできませんので、精油の作用がダイレクトに影響します。

 

それ以前に、例えば真性ラベンダー精油と言っても、栽培条件で、成分は大きく変動します。一般化して、鎮静作用は真性ラベンダーの精油の効果だと断定することもある意味、リスクを伴います。極端な表現になりますが、このような成分のラベンダー精油で実験をしたら、このような結果が得られました、としかえないのではないでしょうか。ラベンダーと1口に言いましても、様々な種や品種があり、交雑も起こりやすい植物です。鎮静効果を示す精油もあれば、逆に興奮作用を持つものも証明されています。成分の光学異性体のちがいで、作用が逆転することも解明されつつあります。

 

精油の薬理効果の実験の多くは、動物を使ってデータを集積したものですが、様々な条件を満たして、学術的にペットに対しても確実性のある薬理効果は、非常に限定されているように思います。例えば、腰に痛みがあるイヌに血流を増やし、痛みを軽減しようといきなりアロママッサージをしたら、もし、脊髄の髄核が脱出しているようなハンセンIのヘルニアなどの場合は、症状は悪化してしまうでしょう。  「アロマセラピーサイエンス」の中で、Maria Lis-Balchinは、マッサージには、 精油を使わなくてもマッサージ自体に利点があると述べているように、健康なイヌであれば、アロママッサージをするより、飼い主さんと一緒のお散歩や、リラックス時に全身の軽いマッサージをすることの方 が、どれほど安全で、身体的、精神的な利点になることでしょう。老齢になり、四肢の機能が衰えた場合であっても、精油の利用は慎重に行わなくてはなりません。

 

皮膚のアレルギー症状に対する精油の利用も同様です。例えば、アレルギー反応の1種としてみられる耳の感染の原因とされる酵母型真菌感染の場合などは、病原体の種類によって、精油が効果的な場合と、ハイ ドロゾルの方が効果的な場合があるのです。それは、病原体が増殖するのに、油脂を要求する性質の真菌か否かが影響してきます。ですから、皮膚を痒がるからとか、病変がみられるからとか単純な考えで、いきなり精油やハイドロゾルを使ったりすると、返って症状が進行して しまう場合もあるのです。動物にアロマセラピーを施術する際は、可能な限り正しい診断を試みて、アロマセラピの必要性を判断してから行わないと、思わぬ結果が待っていることもあるのです。

 

近代アロマセラピーの父と称されるルネ・モーリス・ガットフォセが「アロマセラピー」という意味の用語を提唱しはじめてから、フランスでメディカルアロマが確立したという説も、大きな疑問符がつく事項です。1867年には、欧州の薬局方にすでに精油の記述がなされており、英国Bennet医師は、病院で精油によるアロママッサージで病気の治療にあたり、報告もなされています。1901年には、Hale-Whiteが精油を用いた関節炎の治療が著書の中に記述されています。どちらかと言えば、世に言われる一部の医療家が著した「アロマテラピー大全」ではなく、Hale-Whiteらの情報がメディカルアロマセラピーの基礎になっていると考える方が理にかなっています。イタリアのGatt&Caola医師も、医療としての精油の研究を開始していますので、決してフランスがメディカルアロマセラピーの発祥の地でも確立の地でもありません。Maria Lis-Balchinは、 「アロマテラピー大全」を著した医療家が、著書の誤りを仏語で訂正しているため、世にその情報が行き渡ることがない「アロマテラピー大全」の治療法に言及して危険な療法だと著書の中で批判しています。

 

アロマセラピストの資格を有する人々は、フランスやベルギーでアロマが公的な保険でカバされると教育機関で習ったとよく言います。近年、イギリスの一次診療で、医師が必要と認めた場合に限り、この代替医療が公的保険でカバーされるようになった時期はありますが、実際は、保険制度が赤字のため、保険で精油によるセラピーが受けら れる事例は、ほとんど皆無に近い状態です。その他、欧州でこれらの代替医療に公的保険が正式に使えたという事実は全くありません。 Alternative Medicineという用語を「代替医療」と和訳した広瀬輝夫医師は「代替医療のすすめ」という本を書かれたことで有名です。ニューヨーク医科大学の臨床外科教授でしたが、退職後に世界中を旅して、「世界の医療事情リポート」と題する世界の代替医療に関する本を書かれていますが、フランスやベルギーに関する記述で、アロマセラピーの「ア」の字も触れられておりません。公的保険に関しては、日本のフランス大使館も代替医療の公的保険適用を否定していますが、フランス のメディカルグレードの精油という意味で、ある大きな功罪が公表されています。Henri Pouchon氏は、農場を経営し、良質のラベンダー精 油とラバンディン精油を年間50トン自社で蒸留していますが、自身の農場産と称して、フランスから輸出されるラベンダー精油が250トンに膨れ上がることを公言しています。メディカルグレードとされるフランス産精油に疑問符がつく理由です。

 (http://www.zoominfo.com/#!search/profile/person?personld=28228l   903&targetid=profile)

 

2012年、英国のExeter大学Peninsula Medical  Schoolから、Adverse effects of  aromatherapy;アロマセラピーの有害作用」と題する学術論文が発表されました。過去に発表された人のアロマセラピーに関する学術論文12015件を調べ、科学的なエビデンスとするには不適切な11973件の実験を除外し、42件の論文を精査しました。結果は死亡例を含む、驚くような副作用が報告されていること を明らかにしたのです。論文中では、「効果/効能は発表されやすい が、副作用の事例はほとんど報告されることがない」とも述べています。調査結果からは、精油を使用するマッサージ師の23%が、精油を使い始めてから1年以内に皮膚炎を経験していることなどもあげ、いかなる面から考慮しても、アロマセラピーは決して安全な代替医療ではないと結論づけています(International Journal of Risk & Safety in Medicine 24 (2012) 147-161)

 

身体の小さなコンパニオンアニマルが、人のアロマセラピー用のレシピを薄めただけで、「癒し」と称してマッサージをされたり、飲用をすすめられたりしたら、どれほど危険なことか想像に難くはないでしょう。人のアロマセラピーでも同様ですが、利用しようとする精泊に関する皮膚感作性や毒性に関するデータがあるか否かも大変重要です。現在は、簡単に動物実験ができない時代です。実験をする際には、各研究機関に倫理委員会が設置されていて、動物虐待にならないかどうかを審査し、可能な限り最少の実験動物数でデータを出さなければなりませんし、単なる精油成分の毒性試験や感作性実験はすることはできません。ですから、過去に行われたデータは大変貴重な資料となります。 Martin Wattは、分散している学術的な皮膚感作性や毒性のデータを1冊の本にまとめて、Plant Aromaticsとして発表しました。この書籍に記載されていない、すなわち、安全性データがない精油をアロマセラピーに利用して、コンパニオンアニマルの病状が悪化したり、副作用が発現したら、施術者は言い訳をすることもできません。基本的に安全性データのある精油を選んで施術をするということが鉄則だということ がわかるでしょう。しかしながら、食品添加物として繁用される精油に、安全性データが不完全なものもありますが、どうしてもそのような精油を使わなければならない場合は、細心の注意が必要となります。

 

世のアロマセラピストの資格を有している方々は、新しい香りの精油に大変興味を示し、すぐに使用する傾向があるようです。安全性データを集積する実験が容易に行えないまま、データのない精油で事故を起こしたら、法的にも無防備です。顧客に訴えられたら、その精油を使用した理由を説明することすらできないのです。

 

このように世界のアロマ情報に乱れや誤りがある中、正確な診断がなされないまま、人間の癒しが、そのまま動物にも当てはまるとばかりに、精油やハイドロゾルが多用されています。精油やハイドロゾルの品質の問題も大変大きな影を落とします。何故かと言いますと、精泊を少量購入する一般のアロマセラピストたちは、精油の分析に関して勉強をす る機会がほとんどありません。本来は、ガスクロマトグラフィーと質量分析の技法の概略を知っていることが不可欠ですが、ガスクロマトグ ラフィーで分析すれば、詳しいデータが得られると思っている場合が殆どです。現在は、良質のヘリウムガスが入手困難な時期でもありますので、正確な分析ができない状態が続き、懸念されています。さらに、質量分析をしてもらうにしても、詳しいライブラリーと呼ばれる微量成分の正しいスペクトルのデタが揃っていなければ、これまた分析の精度がにぶります。

 

精油成分の分析にかかわる研究者たちが口をそろえて公言しているように、精油もハイドロゾルも世界的な規模で偽和が横行しています。 100%天然の精油だと信じて使っている製品に偽和があったら、何が起るでしょうか。ハイドロゾルは、近年、化粧品としても人気が高まったため、今までは殆どが廃棄されていたものが市場に出回るようにな りました。生産者の段階で、腐敗を防ぐためにソルビン酸カリウム、パラベン、フェノール、エトキシエタノールなどが混入されます。その後、アロマの書籍に書かれているpH値の範囲に、クエン酸で調整されるのが日常茶飯事なことだと欧州の分析者が公言していています。さらに無菌的な操作で生産されているハイドゾルは極めて少ないと思われ ます。ハイドロゾルのpHは、植物が栽培される土壌のpH値や蒸留に使用される水のpH値が大きく影響します。決して、ハイドロゾルに関する書籍に書かれているような一定の酸性度を示すとは限らないのです。

 

正しいアロマ製品の入手が極めて困難な中、伴侶動物にアロマセラピーを行う場合は、先に述べたように、正しい診断の下、精油やハイドロゾルによる施術が必要か否かを慎重に判断した上で、アロマセラピーには有害作用があるということを十分に認識して利用することが不可欠なのです。

 

人のアロマセラピーでは、多種多様な種類の精油が使われています。動物では、学術的に動物に対しても薬効が証明されているほんの一握りの正しい精油があれば、多くの症状をある程度、一時的に緩和することが可能です。しかしながら、種々の症状の根本的な改善には、アロラピーだけでは対処できないことが多いことも判明していますので、全体的な飼育法に関するアドバイスも不可欠な要素です。精油やハイドロゾルを動物に利用しようとする際には、何らかの疾患で薬剤による治  療中でないことも確認しなくてはなりません。基本的に、伴侶動物に対するアロマセラピーは、適切な濃度/頻度で、可能な限り、短期間で最大の効果を得られるように細心の注意を払いながら行うべき補完代替療 法ではないでしょうか。

 

人でも動物でも、身体や精神への効果/効能を謳うことを許す限り、同時に有害性についても説明することは、切り離すことができない義務ではないかと思います。雑貨として扱われる精油を用いるアロマセラピーではありますが、強力な薬理作用を発現することがあるxenobioticsす。今後の正しいアロマセラピーの普及には、現在のアロマセラピー関係者はもとより、人や動物の医療関係者、化学者、生化学者、薬理学者をはじめ、植物学や動物学に精通したスペシャリスト、また、精油の ビジネス関係の要素も関わりますので、当該情報に精通したスペシャリストなど、様々な分野の研究者が協力し合って、情報を交換しながら 精油の効果/効能、副作用などを公正に認識することで前進していかないと、方向が見失われ、人や動物の福祉に反することにもなる可能性が否定できないのではないでしょうか。

 

                          日本アニマルアロマセラピー協会顧問

             獣医師 田邊興記

                 田邊和子

              会長 甲能純子